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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(あ)818号 決定 1967年7月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

検察官の上告趣意について。

第一点は、違憲(二一条、一二条違反)を主張するが、原審は、所論のような厳格な制限解釈を条件として破壊活動防止法三八条二項二号の規定の合憲性を認めたものではなく、また、この点に関する原判示は、所論のように右憲法各法条の解釈を示したものということができないから、原審が所論のような判断をしたことを非難する違憲の主張は、前提を欠くものであり、第二点は、判例違反を主張するが、引用の判例は、本件とは適用法条を異にし、それぞれ事案に即して、言論の自由が制限を受けるべき場合のあることを判示しているに止まり、所論のような点につき、憲法判断を示したものではなく、所論は前提を欠き、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。

第三点は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。(なお、原判決および同判決が是認する第一審判決が適法に認定したところによれば、被告人らは、日本共産党員もしくはその同調者であるが、これまで内乱の実行手段ないし準備行為を企図したことは全然なく、本件軍事文書についてもその存在さえ知らなかったところ、党員の島名武雄に命令され、その使者としてこれを労働争議中の安永鉄工所の工員に頒布するに際し、右文書の内容を一瞥し、あるいは相被告人より聞き、または臆測してこれを了知した程度にすぎず、被告人らの意図は、もっぱら同工員をして自発的に内乱に立ち上らせることにあったというのである。さらに、右各判決は、安永鉄工所の工員が日本共産党員もしくはその同調者であり、本件軍事文書の指令に服すべき関係にあった事実は認められず、また右文書の頒布により内乱罪の実行されうべき可能性ないし蓋然性が客観的に存在していたことは認められないとしているのである。以上の事実関係のもとにおいては、被告人らの本件行為が、破壊活動防止法三八条二項二号の罪にあたらないとした原審の判断は、結局正当である。)

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

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